天才でもメモを取らないと、とんでもない失敗をすることがある

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内閣官房参与の高橋洋一教授は、大変に優秀な頭脳をお持ちです。

ただし残念ながら頭脳は優秀だけれども、メモを取る習慣をお持ちではありません。また彼にマッチしたスタッフを抱えている訳でもありません。

このため時々、とんでもなく見当違いの評論をすることがあります。

今回はメモの魔力の使い方の練習を兼ねて、彼の失敗談を紹介させて頂くことにしましょう。

転売ヤーはオークションで潰せ

高橋洋一教授は、次のような動画を高橋洋一チャンネルにアップしています。

これは昨今の騒動でトラブルとなった消毒液やマスクにおいて、転売ヤーの活動を壊滅させる方法を紹介した動画です。

結論からいうと、「オークションで販売せよ」とのことです。オークションにすれば転売ヤーが介在できる余地がなく、商品の需要にあった価格で商品が販売されるようになるとのことです。

今回は転売ヤーの活動拠点がオークションを中心になった点を考えると、実に興味深い話です。たしかに転売ヤーはオークションでは出品するだけで、購入するのは最終消費者のみでした。

なお上記の動画はQ&Aによる問答スタイルとなっており、スタッフも高橋洋一教授の説明に感心していました。

それでは本当に、高橋洋一教授のいう通りにすれば、転売ヤーを壊滅させることが出来たのでしょうか。

そして転売を防ぐために法規制や各種対策を実施した関係者たちは、高橋先生のようなアイディアは思いつかなかったのでしょうか。

(どうしてオークション中心(SNSも若干アリ)だったと言い切れるかというと、マンション理事長(雑務係)として、理事会運営などで消毒液やマスク確保に苦労させられた訳です。知り合いの弁護士も、昔からアレコレ悩まされたりしています)

机上の空論

少し考えてみれば分かりますけど、高橋先生のアイディアは見当違いです。

高橋先生はノーベル経済学賞の大賞となった電波オークションで煮え湯を飲まされており、その経験から本件を思いついたようです。その気持ちは分からないでもないですけど、今回は強引過ぎます。

まずオークションは、一体誰がどこで開催するのでしょうか。量販品をオークションにかけるということは、まとめた一定量でオークションをかけるか、最終消費者が希望する1つ単位でのオークションとなります。

これは製造メーカーがオークションに出品するのでしょうか。もしくは小売店を正規販売登録して、小売店がオークションに出品するのでしょうか。

それから高橋先生のアイディアを推進すると、どうやら最終消費者が購入する価格は、オークションに出品されているような価格と変わらないことになります。

今までは需要と供給に応じて、製造メーカーが生産量を調整したビジネスをしていました。今回はそのバランスが、急に崩れた形になります。

高橋先生は需要と供給の重要性を説いています。それは確かにその通りです。

しかし今回の問題は需要の急激な変動に供給が追い付けず、そのために品不足が発生しました。そこに転売ヤーが付け込もうとして、生産者・小売り者と最終消費者の間に割り込んだという構図です。

そういう意味では、転売ヤーを壊滅させるという考えは悪くありませんけど、それが問題の本質なのでしょうか。

こうやって考えると、高橋洋一教授は根本的な考え違いをしていると言わざるを得ません。

それをこれから「メモの魔力」というか、その源流となるPyramid Principleを使って考えてみることにしましょう。

ちなみにこのPyramid Principleは、MBAと呼ばれる経営学修士コースでは古典的な定番教科書です。私がMBA出身者に尋ねたところ、40歳以上の者は全員が知っていました。

メモや手帳の活用

実は高橋洋一先生も、日頃の論説ではPyramid Pricipleのお手本のような記事を発表しています。

まずはタイトルの前半でテーマを明確にし、後半で結論を書いています。これはPyramid Pricipleの大原則です。

それなのに明後日の方向の結論になってしまったのは、SCQ部分をちゃんと考えていなかったからです。

Youtube動画を見る限り、即興でテーマと結論を述べているだけで、SCQが解説されていません。その点が問題なのです。

  • S (Situation):背景/事情
  • C (Complication):考えるべきこと
  • Q (Question):Cから導き出される問いかけ

たとえば船に乗っていて大揺れになった時、港へ避難するのは必ずしも得策とは言えません。もし地震による波揺れだったらば津波のリスクがありますから、逆に港に停泊している船舶があれば、一斉に沖合に出ます。

しかし台風や嵐による揺れだったら、港へ避難しないと大変なことになります。

当たり前のことですけれども、このあたりとちゃんと考える必要がある訳です。残念ながら高橋先生や私が好きな数学は論理式しか使えませんので、ここはSCQフレームワークに頼ります。

それは転売ヤーが出て来る "Situation" (背景/事情) は何でしょうか。これは日頃は消毒液を使わない人まで、消毒液を欲しがったことによる需要の増大という話があります。それから消毒液を使う人でも、在庫を心配することにより、彼らの需要も増大するという話があります。

心配するのは、メーカーが工場で生産する訳ですけど、千羽鶴のように人海戦術でどうこうすることが難しいからです。どんなに増産に励んでも、工場ラインの稼働率には限界があります。また原材料も確保しないと生産できません。だから最終消費者が心配することにより、需要が増大する訳です。

それで "Complication" (考えるべきこと)に映ります。「メモの魔力」的には、"So what?" (だから何なの?) と解釈してもオッケーです。

で、需要が増大すると何が起こるかというと、供給不足が発生します。これが永年的なものであれば、高橋洋一先生が大好きな「需要-供給」曲線によって値上がりが発生する訳です。ただし今回は一時的な事象であるために販売側の値上げではなく、供給不足(品薄状態)が発生します。

そこで転売ヤーは、いち早く消毒液を買い占めます。メーカーも小売店も一時的なことだから、店頭で「おひとりさま一点」などの販売制限をかけるのが精一杯です。

しかし転売ヤーたちはアルバイトを雇ったりして、「おひとりさま一点」を買い占めます。で、それは最終消費者として購入したものだから正規ルートでは販売できず、オークションなどでの出品となる訳です。

だからメカニズム的には、高橋洋一教授がコメントした内容と同じ事態が起こった訳です。たしかにメーカーや小売店がオークションに出品すれば、転売ヤーは活動制限を受けたかもしれません。

しかし上記のSとCを見れば、自らに問いかけるQ "Question" (問いかけ) は「転売ヤーの壊滅」という発生現象よりも、「いかにして需要増大や供給不足を低減するか」という根本原因の解決になる訳です。

だからオークションでの転売禁止などの法的対応も実施されましたけど、政府は「飲料用アルコールの消毒液への転用許可」や「アベノマス」によって、人心を落ち着かせることによって(将来懸念による)需要増大を低減し、さらに代替品により供給不足対策をした訳です。

あとはご存知のように、あやしげなところで高値販売されていたマスク価格は一気に下落しました。また消毒液も無事に出回るようになり、転売ヤーは在庫を処分するのに苦労する羽目に陥ったのでした。

まとめ

以上のように、メモや手帳によって思考を整理するというのは、優秀な頭脳を持つ者にとっても重要なことです。

高橋洋一教授は2台のスマホを持ち歩いて脳内に情報蓄積することが多いですけれども、少なくとも私たちはメモや手帳を持ち歩いた方が無難だと言えるでしょう。

それから大切なのは、自分一人だけでアイディアを思いついただけで終わりにせずに、友だちなどと意見交換したりすることです。

今回の高橋先生のコメントは、落ち着いて聞いていれば、メモや手帳を使わずとも「変だ」と気づくことができます。動画はQ&Aの問答形式で進められましたけれども、スタッフが応対は形式的であって残念なものでした。

特に社会経験が不足している場合は、常識に照らし合わせて感覚的に認識するというのは難しいです。

私としては、見当違いの失敗を出来るだけ減らせるように、ぜひ日頃から自分の力で考えてみることをオススメしたいです。

それでは今回は、この辺で。ではまた。

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記事作成:小野谷静 (よつばせい)